トロントで「マジックソングズ」

 今回のトロントでの公演は、ニューミュージックコンサーツさんの主催で、毎年催しているコンサートシリーズの1999-2000で取り上げていただいたことで実現したのですが、さらにその中でA JAPAN MINI-FESTという枠付けで、日本人アーティストを取り上げた3つの公演の一番初めが我が”UTAONI Choir”(^_^)の公演でした。
 
 リハーサルを終えCBCビルの上の階で用意された夕食を頂きました。
 気を遣っていただき、日本人向けにお寿司なんかもたくさん出していただいて、コンサート前のひとときをそれぞれ過ごしました。
 上の方の階だったのでまだ明るいトロントの街がよく見えます。雨はやんでいますが、あのまま曇りの日だったようです。

 温かいコーヒーも用意していただき、食事の後もぼんやり過ごしました。ここでもコーヒーはおいしい!(まぁ、うたおにの食欲たるものすごいもので、用意されていたもの、きれいになくなってましたね)
 指揮者、副団長は通訳さんを交えてまだ打ち合わせをしていたようです。
 この後、この二人は本番前にロビーで行われるシェイファー氏の講演会にも出ることになります。

 時間も迫ってきたので、スタジオの控え室に各々戻り、いよいよ着替えて本番を待ちます。

 控え室に来るとさすがに「いよいよか・・・」、との思いも強く緊張してくるのがよく分かりました。

 今更何を思っても仕方ない、後は舞台の上で<自分>を出せることだけを。
それだけを思って、本番を待ちました。

 ステージ横通路のモニターで、シェイファー氏の公演が映っています。

 何人かはロビーまで見に行ったようで、僕にはとても本番前そんな勇気(?)はなく行かなかったのですが、その見てきたメンバー曰く

「あれがお客様なのかな?」
「ん?そうやろ」
「あんだけが、お客なんかな?」
「まぁ、そりゃ遅れてくる方もみえるだろうから、少しは増えると思うけど、基本的にはそうじゃない?で、どれくらいなの?」
「ん〜。30人くらいかな」

思い切り笑ってしまいましたね。

まぁ、それくらいオチがないとなぁ・・・。
田舎の日本人グループがいきなりこんな大都会トロントの街で単独演奏会させていただいて、まぁそんなうまい話はなぁ。
かつて少ない会場で歌ったこともあるしなぁ・・・、しかし、もーちっと増えンもんかね?
副団長がロビーから戻ってきました。

「お客すくないんやて?」
「うん、まぁ・・・そうかなぁ・・・」
「30人くらい?」
「いや、いや!!そんなことはない。ん〜〜〜、50人くらいはおるかな?」

ははははははは。(^_^;)

まぁいいや。
がんばろーね。

さて本番です。
通訳の方から「行きますよ!」
と、声がかかり、
指揮者の
「焦らず行こう!」
に、みんな小さな声で頷きました。良かったメンバーみんな同じサイドからの入場で。

客電が消え、ステージの扉が開きました。

すると・・・
すごい拍手です。

おいおい、こんなん数十人の拍手やないで?

リハで並んだときとはまるで違った面もちでステージに並び、後を追って指揮者が出てきます。
さらに大きな拍手。

400人のキャパの会場に半分近く、もしかしたらもう少しみえていたでしょうか?

少しのお客の顔しか見えず、シェイファー氏がどこにみえたのかも分かりませんでした。
数少ない、一緒に来て歌わない身内はベビーシッターとそのベビー(笑)
アルトメンバーの旦那はビデオの撮影で客席内にはいません。
みーんな、シェイファー氏以外は知らん人!!

でも、目の前に、一番近くにいるのはよく見る顔で、一緒にトロント市内を飽きるほど歩いて、食べきれないほどの食事に笑ったり、あきれたりした・・・あの仲間です。両サイドに・・・後ろに並ぶのも、かけがえのない大切な仲間たちです。
怖がることはないんです。

最初に歌う「マジックソングズ」を最後に「うたおに」で歌ったのは多治見での国民文化祭。
中国から帰ってきた翌日でコンディションはぼろぼろでしたが、「うたおに」が歌い継いできた表現をはっきりしてきました。
今晩もそれをすればいいのです。

曲の冒頭・・・

O−−−−−−−−−

練習中しきりに
「もっとエネルギーを出して!」「もっと!!」

といわれ続けたこのフレーズ。
このトロントでどれだけはじけることが出来るのでしょう?

マジックソングズは全曲で15分程度の曲です。
すべての曲アタッカでつながり、どこも休むところはありません。

途中音が狂ってきたときのみ取り直しますが、この日はどうだったのかさっぱり覚えていません。
とにかく終曲で日本から来た僕らのマジックがかかるのか?
自然は答えるか?蛍は光るか?石は歌うのか?・・・それで頭がいっぱいでした。

あんなに苦しんだ第3曲の「蛍」のソリ。
直前になり調子悪そうだった、ソプラノ女史含むソリパート。

トロント市内を延々と歩いていた日に、このコンサートのチラシを見せられ
「どうなるもんか・・・な?」
と言ってた僕に
「後はやるしかないやン!!」
といった一見当たり前の彼女の言葉が、どれだけ響いたことか・・・。
見事にやってのけました、ね。

「マジックソングズ」は唱えた呪文(僕らが勝手にそう思ってるだけです)とともに、それらを解き放つべく「足踏み音」で終わります。

 会場全体に、どーーーーーーーーん!!と鳴り響き、

しばらくしてから、我に返りました。

会場全体からわき起こる拍手に、さらに現実に戻され、
客席からは
「ブラヴォー!!」の声。

これは現実か、と思いつつもステージをあとに、袖にひっこみました。

「今までで一番いい演奏」
誰もが口にした袖でした。

次は牧歌。
「牧歌はアジアの歌です」
何度も繰り返す副団長の言葉が今もよみがえります。

続く